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桜坂洋『スラムオンライン』 (ハヤカワ文庫JA,¥630) [bk1][amazon]

青年は荒野を目指す。 でも今日日「荒野」ってどこよ?
答え:「モニターの中、パケットの飛んだ先」 そういう物語。
やさぐれゲーマー青年のもっともセンシティブな部分(つまり、もっとも青臭い部分)がゾロリとむき出しになっていて、それに対する強い共感と強い反発を覚える。 琴線を(というか、己の骨肉となって久しい部分を)ブルンと揺さぶられた。 やべぇ、泣きそう。
ポスト『東京ヘッド』ストーリー?
主人公である青年は、やさぐれている。 現実世界で無遠慮に飛び込んでくる音をすべて「SE」、サウンドエフェクト、効果音だとみなすぐらいにはやさぐれている。 このやさぐれは、半分ビビりでもあって、知人の一人がひきこもってオンラインゲーム漬けになって郷里に強制送還されたことを一種の淘汰なんじゃないかと勘ぐるくらいには現実世界の無遠慮をおそれている。 じつに青年らしい身の処し方で、わはは、バーカと笑いたくもなるけど、彼のやさぐれ方は総じて愛しい。
同じ講義を受けてる女の子と知り合って、彼女は街のどこかに居る「青猫」を探してて、野郎もそれになんとなく付き合う。 そうこうしているうちに親しくなって「あれ? もしかして俺らつきあってる?」ぐらいに。 野郎的にも「あーこのまま『青猫探し』してたらしやわせになれんのか?」と思わないこともない。
「でも、違う。」
そこでこう確信するのがこの青年の善性だ。
青年は荒野を目指す。 でも今日日「荒野」ってどこよ?
答え:「モニターの中、パケットの飛んだ先。」
オンライン対戦格闘ゲームでの「強さ」とか、
そこで何重にも仮面をつけて格闘する人々とか、
その人たちがそれぞれ抱える真実とか、
彼らとの闘いとか、
そこに在る自分とか。
そういう、薄っぺらであやふやで無価値この上ねえ諸所のモノゴトが、青年にとっては見極める必要と必然がある何事かであって、青年はおそれず怯まず退かずそれを見極めんと欲する。
ビビりはオンラインじゃ強気になる。 それだけのことかもしれねえ、まぁ知ったことじゃねぇ。
ただ、最強は観衆もなく決められる。
その戦いにこそ耳を澄ませ、60分の1秒で動く風の先を読め。
みたいな。
やさぐれゲーマー青年のもっともセンシティブな部分(つまり、もっとも青臭い部分)がゾロリとむき出しになっていて、それに対する強い共感と強い反発を覚えた。
どうして俺(たち)はゲームなんかに身を投じなきゃならないのか?
ぶっきらぼうな問いとぶっきらぼうな答え。
だけれど、指の皮を固くしたのは、将来リアルな世界で金を稼ぐためじゃなかった。あのときガキだったぼくらは、ゲームをやるためにゲームをやっていた。
指輪物語のラストで、エルフたちが西の海の果てに行くのを止められなかったように、あっちの世界に行こうとしている彼を止める言葉をぼくは持っていなかった。ぼくは指輪の魔力を知ってしまったホビットで、でもぼくはメリーであり、彼はフロドだった。
(53頁)
「闘争の場なんだよ、社長。その現代版。大人も子供もない。階級もない。そういうの、社長もむかしはやったクチだろ」
「ゲームの中で闘争なのかね?」
「社会の革命だって内ゲバだって、フタを開けてみたら結果はリアルじゃなくてバーチャルだったろ共通言語ってのは自分たちで見つけることに意味があんの」
(155頁)
ゲーマーたち(しかも対戦格闘野郎)という滅ぶべき種族の、このような心象を描きとった小説を、俺は他に知らない。
ポスト『東京ヘッド』ストーリー? あるいは「特別な場所」を巡る物語。
かつて「聖地」と呼ばれた新宿のゲームセンターがあった。 ひどくセンチメンタル。(参照→どうよ? 最近:大塚ギチ『東京ヘッド』)
あれから10年。 すでに「聖地」に意味は無い。 重要な意味はすでに剥離してる。 そういう物語でもある。
対戦相手は「パケットの届くところならばどこにでもいる」のだから。 場所に意味は無い。 かつてはあった。 そう信じられている。 かつて「聖地」と呼ばれた場所に、いまもドラマはある。 しかし、主人公の青年はそこに介入しない。 できない。 する意味が見えない。 週末「聖地」でプレイする達人がいる。 彼らのドラマは物語られない。 時代は過ぎる、もしくは過ぎた?
俺のひどくガキっぽい部分が、この小説が見向きもされないといい、と願っているのを自覚する。 お前らに理解なんぞされてたまるか! と俺のひどくガキっぽい部分が息巻いてるのを自覚する。 「ほっといてくれ」なんて言い放って見せるのはおこがましいことこの上ないんだけど、ガキは平気でおこがましいことを言う。
ゲーセンノートに書き込みをしたことのある人は必読かも。
なんとなくそう思う。 あやふやで、はかないコミュニケーションがそれを連想させる。
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