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中島望『地獄変』 (講談社,¥1134) [bk1][amazon]

傑作『十四歳、ルシフェル』の続編。
期待して読んだ。
無慈悲な暴力に命を散らせた十四歳の少年は、無敵の人造人間・ルシフェルとして蘇える。 小型原子炉を搭載し、鋼鉄を引き裂くパワーと超音速で地を駆けるスピードを備え、無慈悲に躊躇無く後悔もなく、あらゆる悪を挽き潰す彼は、しかし、その胸の奥に無力な十四歳の魂を潜ませていた……。 単純で圧倒的な暴力を振るい、それに酔いながらも、依然として少年の純粋さと弱さを持つ彼の行く末やいかに。
今回の敵は、引退したヤクザの親分・十束虎之介。 引退して絵を嗜む虎之介が描くのは「地獄絵図」。 己が目で見たものしか絵に描けないという彼は、組員たちを生体改造して地獄の獄卒「地獄衆」を創造し、化け物どもを操ってこの世に地獄を招き寄せる。 血。 血。 血。 死。 死。 死。 虎之介の審美眼は人造人間・ルシフェルにも向けられる。 この世の地獄で強力無比な化け物どもが全力の闘争を繰り広げる地獄絵図を描きたい。 かくして、ルシフェルは闘いに巻き込まれる。 地獄の釜の蓋があく。
ああ、もう暴力暴力暴力。 本を開いてから閉じるまで、全編無慈悲な血と死と破壊に充ち満ちてて、逆に清々しいほどだ。 人造人間・ルシフェル=源正義が相手取る連中も、鬼だの牛頭鬼だの餓鬼だの改造人間だの血吸蝙蝠だの巨大蛭だの全長17mのヤツメウナギだの巨大ロボットだの。おおよそ人間辞めてるかそもそも人間じゃない連中ばかりで、その図太いまでの荒唐無稽ぶりにはやはり単純であるが故の力強さを感じる。 クローンだって超能力者だってでてくる。 忍者と宇宙人とミュータントがでてこないのが逆に不思議だ。 いや、でてくるんだろう。 ルシフェルの相手が必要とあらば。
必要とあらば? いや、本当に必要なんだろうか? こんな疑問を抱いたのはページに吹き荒れる暴力の嵐を心地よく思いながら、それでも感じたのは「哀しさ」だったからだ。 「哀しい」あるいは「淋しい」という印象。 もしくは、儚さ。
この世に地獄を招き寄せるヤクザの親分・十束虎之介の望みは単に「絵を描く事」でそれ以外のことに、彼に興味はない。 人造人間・ルシフェル=源正義のパトロン/所有者、土岐龍太郎はルシフェルに己の剣技を仕込み(しかも与えた刀は村正だ)、彼の剣が敗れたならばルシフェルに切腹しろ、という。 なんだかこの二人は、ただ自分のおもちゃに夢中になっているだけの子供みたいだ。
ルシフェルの敵役、「ヨシュア」の名を冠するヤクザ、不動正宗は己の肉体に徹底して固執する。 素手で虎を屠り、女を抱き、肉を喰らい、サイボーグであるルシフェル相手に空手で渡り合う。 不動正宗の己の肉体と強さに対するこだわりは、源正義の機械の身体、機能のひとつとしてインストールされた強さ、と対を成す。
肉体が、機械に負けちゃいけねえ
こいつが言いたいことやっていることの意味はわかる。 でも、肉体に依存する男の強さ、って、賞味期限切れで無効になった(だからこそみんなが安心して楽しめる)幻想ってやつの最たるものじゃなかったか?
あるいは取り払われる距離。 ほぼ無制限のテレポーテーション能力をもつ超能力少年の存在が、この世界から一切の距離を失わせる。 「ブラウン管の向こう」「モニターの向こう」という距離は無い。 誰もが殴られる距離にいる。 ニュースを読み違えたニュースキャスターは戯れに殺される。 リングにあがる出番を待つ格闘王も呼び出しをくらいあっさりと殺される。 激闘の最中東京タワーはへし折れ、報道ヘリはたたき落とされる。 直接的な暴力が通じない、という事態は回避される。 政治なんていらない。 だから、最後の決戦は国会議事堂だ。 もちろん壊す。 政治家どもは屠殺される。 わかりやすくいこうや。 わかりやすく、な?
すべて暴力で片が付く世界にしよう。 つまりはそういうこと。
儚いなぁ。 繰り広げられる破壊も残虐も。 結局は「男の子の夢」じゃないのかな。 という気がする。 なにとも、どことも繋がりもなく、ただ自足できてしまっている。 「哀しい」あるいは「淋しい」という印象をうけたのはそのせいかもしれない。
70年代学園バイオレンスSFを21世紀に甦らせたと評された前作を、よりスケールアップして展開したら、あっさり現実味を失って男の子の夢になってしまった。 というのは、皮肉ではあろうけどまぁ順当だろうとも思う。 みんな、ただ派手だったりスケールがでかかったりする絵空事に無邪気についていけるほどバカでも元気でもないんだろう。 良いか悪いかは別として。
ただ、それは作者の予想の中、という気もする。 「みんな絵空事に成りはてる」という覚悟はハナから決めてると思う。
じゃなかったらルシフェルの性能試験をやる島が「パノラマ島」だったり(江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』[bk1][amazon])、敵側の本拠地が「B−612」だったり(サン=テグジュペリ『星の王子さま』[bk1][amazon]星の王子さまの生まれ故郷の星)そういう名前はつかないだろう。(関係ないけど地獄衆を改造してるマッドサイエンティストは諸星五郎。 モロー博士ですか?)
もしこの物語に決着がつくのであれば、このままどんどんエスカレートさせて、せめて「神話」になるぐらいのスケールでやって欲しい。
困極まった永井豪漫画がいつの間にか「神話」になっちまうみたいに、この物語も誰も想像できないぐらいのハチャメチャな方向に吹っ飛んでいって欲しい。 そんぐらいやらないと「70年代学園バイオレンスSFを21世紀に甦らせた」とは言われちゃいけないんじゃないかな? もっとハッチャけて欲しい。 そう願う。
作品の勘所を心得た林田球のイラストは素晴らしい。
表紙とイラストを見ればどういう作品かわかります。 イラストに描かれてある事は100%、そのまま、内容に忠実です。 牙の生えた筋骨隆々たる大男がゲラゲラ楽しそうに笑ってる? はい、正解! その通りです。
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