第弐齋藤 土踏まず日記 : 平山夢明『東京伝説―うごめく街の怖い話』

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2003/05/16 (金)

[BOOK] 平山夢明 『東京伝説―うごめく街の怖い話』(竹書房文庫,¥552)

平山夢明 『東京伝説―うごめく街の怖い話』(竹書房文庫,¥552)

 寝る前に悪夢を見る予感があったが寝てみたら本当に悪夢をみた。
 いま住んでいる部屋に包丁を持ったきちがいが侵入してくる夢だった。 きちがいには話が通じない、ひとり言を叫びながら刃物をふりかざす。
 きちがいの形相はおよそこの世のものではなかった。 悪意をこねて作られた人形みたいな。 あるいは昆虫みたいな。
 こんな夢を見たのはもちろん平山夢明『東京伝説―うごめく街の怖い話』を読んだせいだ。
 東京伝説。 ありえない、でもありそうな噂。 恐怖の対象とされているのは気の狂った人間。 あんたが学校だか会社だかに行くときに向うのホームで/対面の椅子で/屋上で/一日中エレベータの中にいて/コンビニの裏で/たわごとを叫んでいるあの人(たち)が、恐怖の対象だ。 ひどくわかりやすくて陳腐で猥雑で不潔な狂気。 けして触れたくないけど身近にいやがる異界の徒。 そいつが恐怖の対象だ。 おそらく古人が妖怪変化や幽霊を怖れたのと同じように、俺たちはホームの向こう側でぶつぶつ言ってるきちがいを怖れている。 想像力のあり方においてそれは等しい。 存在のあり方においてそれらは等しい。

 起こりえる。起こりえる。起こりえる。
 薄っぺらく、透明で、無差別な。 現代の、恐怖のあり方。 それは誰の身にも起こりえる。
 俺はこれを読んでいる最中二度、部屋の戸締りを確かめた。 自分が女性でないことを神に感謝し、俺の知る女性達が無事であることを願った(そう、この怪談集を読んでいて思った、女性であることのリスクを)。なにより、てめえが駅員の制止を振り切って線路を渡り向こう側のホームでひとり言をわめきださないことを祈った。
 ああ、ヤだヤだ。 平山氏の生理的嫌悪感を催させる文は一級品だと思う。 この人、サービス精神に溢れてる。 すごく嫌な方向にこそ。

 平山夢明氏のホームページ「デルモンテ平山と平山夢明のあやしいホームページ公開しちゃうのかよ(仮)」はいつのまにやらこの手の話が集まる場所になりつつあるみたいだ。 興味があったら一度みてみて「うわあ」と言ってくれ。 にしてもこのページ名最悪だな。

 悪夢に起こされて目覚めると午前4時過ぎだった。
 水でも飲もうと思って立とうとしたら、テレビとビデオデッキ、スピーカ一式を乗せた台が倒れてきた。 寝ているこちらに向かってだ。
 危うく避けたが、寝入っていたらひどい目にあったかもしれない。 なるほど、悪夢を見たのはこれのせいか。
 テレビ台の足は歪んでいた。 引越しのどさくさで曲がってしまったのだろう。 それが耐えられなくなったのだ。
 いや、違うのかもしれない、でも考えたくはない。

 「知るか、バカ」

 呟いて、もう一度寝た。

平山 夢明(著) 『東京伝説―うごめく街の怖い話 [bk1][amazon]
竹書房(竹書房文庫) | 発行:2003/04 | 価格:\580 | サイズ:15 x 11cm | ISBN/ASIN:4-8124-1167-X
『別れた女の実家に供花や卒塔婆を投げ込んでは墓場にする男、腐った赤子を抱いてヒッチハイクする女、ゴキブリを自由に操ることのできる不思議な男……。「超」怖いシリーズの鬼才、平山夢明がじかに拾い集めた、ぬめるような怖さを湛えた本格怪奇譚全42話。幽霊や妖怪など一切出てこない。これは全て現実の名のもとに起きた恐怖、極限のリアルホラーである。』

2003/05/17 01:32

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