第弐齋藤 土踏まず日記 : 花輪和一『刑務所の前』

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2002/12/08 (日)

[COMIC] 花輪和一『刑務所の前』(小学館,\952)[bk1][amazon]

花輪和一『刑務所の前』(小学館,\952)

業が煮える様が見える……。

 1994年に銃刀法違反で逮捕され、実刑判決懲役3年。 そのまま『刑務所の中』(小学館,\1600)[bk1][amazon]となってしまった花輪和一氏の『刑務所の前』、実銃「コルト・ガバメント」修復の記録が描かれ……るだけじゃなくて、「幸せ」を求めて日々生きる娘の不可思議な時代劇マンガと、獄中で氏が体験したこぼれ話とが渾然一体となって、濃厚にして珍妙、業が深く、それでもどこか軽やかな、そんな世界を醸造してございます。

 …………。
 すげ〜な。

 というのも、氏が入手した「実銃」ってボロンボロンに錆びたもので、フツーの人には錆びた鉄隗にしか見えないような、そんな代物なのね。 それを(「磨くと火花が散る!」とか言って喜びつつ)磨いて錆びをとって、穴をハンダで埋めたり、欠け落ちた部品を削りだしたりして、徐々に直していくのだけれども。
 その様、語り口から接し方にいたるまでが「業を感じさせる」。 好き嫌いの話じゃないのね、もう。 いや当然好きなんだろうけど。 むしろ、そんな地平はとうに通り越してて……「そうである」か「そうでない」かのふたつにひとつしかない、みたいな。 そういう濃厚な世界ですわ。 「オーラ」とか言いだしてるし……。

 でも、その濃厚な世界を描く筆致はひじょうに精緻で冷静。 銃の修復と境なく(ホントに境がない!)語られる「時代劇」にしても、両親の業に苦しみ悟りを求める娘と父親の幸福と自分の幸福が相反することに悩む少女(これが鍛冶屋の子でむかつく事があると山で火縄銃ぶっ放す。おいおい)とを描く、相当に粘着質でおもっくるしい話のくせに、どこかひょうきんで軽やか。 視線の冷静さや精緻さこそが、この濃厚な世界をエンタテイメントとして成り立たせてる。 そんなふうにも思います。

 業を背負うた人間が、たまたま「冷静な目」とそれを自在に描ける「精緻な腕」をもった漫画家で、そんな彼が「いってかえってきた」もうひとつの世界ってのがつまり「ムショ」なわけですが。 そこに至るまでの道のり。 興味深すぎです。
 あまりにユニークなこの漫画、『刑務所の中』ともども、オススメいたします。 っつーか「オススメ度」でいえば『刑務所の中』のほうが激しくオススメ。

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 巻末に4コマ漫画(!)が載ってるんですが、花輪和一氏の4コマ漫画って珍しくないですか? これも貴重っすよ。

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